蝉雑記帳2008




1、松枯れが深刻化する伊良湖岬

伊良湖国民休暇村
2008年
伊良湖国民休暇村
2007年
松枯れ
松枯れ

 5月17日、伊良湖岬、松枯れが一段と深刻化しているようで、黒松林に囲まれていた国民休暇村はまるで草原の中に建っているようだった。ハルゼミの観察に都合の良い、海岸付近の松林も松枯れが目立ってきた。ハルゼミの数も少なく、あと数年で、この周辺のハルゼミは松林とともに消えてしまいそうである。

2、戸面原(とづらはら)ダム

 7月20日、久しぶりに千葉県のヒメハルゼミでも見に行こうということで、選んだのが戸面原ダム。交通はかなり不便、内房線の上総湊からのバスがあるのだか、廃線寸前か8時半の次が11時までないという有様。戸面原ダムの周辺は富津市市民の森になっている。
野鳥の森入り口
野鳥の森入り口
関豊駅バス停付近
ヒメハルゼミが鳴く人家の裏山 バス停関豊駅付近
関豊駅バス停付近
ヒメハルゼミが鳴く高宕山自然動物園付近の山

 ヒメハルゼミは野鳥の森付近で比較的多くの鳴き声を聞いたが、南伊豆の石廊崎と比べると鳴いている時間が短く、合唱間隔も長い。木も高く、観察に都合の良い場所は見つからなかった。


3、クマゼミ

 8月2日、新幹線に乗って9時前についてクマゼミがいるところ、駿府公園でも行ってみるかということで静岡へ、駅を出てしばらく歩いてたどり着いたのが、なぜか八幡神社。まったく逆方向に歩いて行ってしまった。後ろに八幡山という城跡がある。八幡神社で不審者(筆者)に尋問してきたおまわりさんは、昔はアブラゼミとニイニイゼミが多かったが、今はクマゼミばかりになったと言っていた。確かにクマゼミは多いが、普通の範ちゅうだと思う。アブラゼミも普通に見られるが、ニイニイゼミは少ない。八幡山は木が高く、クマゼミ、アブラゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシの声を聞いたが、どれも個体密度は低い。そのせいか、親子連れのセミ取りは、もっぱら八幡神社の境内が中心のようである。
クマゼミ
クマゼミ 八幡神社
駿府公園
駿府公園
 昼過ぎに気を取り直して、駿府公園に行った。木がまばらな感じがする公園で、やはりクマゼミの声が多いが、普通に見られる程度である。アブラゼミに混じって、ミンミンゼミ1個体の声が聞こえていた。駿府公園は平坦なので、樹木と一緒に運ばれてきたものと推測される。
 8月10日、城ヶ島、めずらしく、京浜急行の三浦海岸駅付近でクマゼミの声を聞いた。三崎口駅付近ではクマゼミのを聞かなかったが、三崎警察署を過ぎるあたりからクマゼミの合唱が聞こえてくるようになり、場所によってはやかましいくらい鳴いているところもあった。以前は8月の終わりに単独で鳴いているのを聞くくらいだったから、明らかにこの周辺のクマゼミは増えた。ここ数年低調だった城ヶ島のクマゼミも、場所によってはかなり多かった。
 8月13日、平和島公園、モノレールの浜松町から流通センターまでの間で2度ほど車中よりクマゼミの声を聞いた。平和島公園のクマゼミはおおよそ鳴いている数が把握できるので、静岡や城ヶ島から比べると数は少ない。それでも、低い木に来て鳴いているものがいたので写真だけは撮れた。平和島公園で最も多いのはアブラゼミである。
クマゼミ
クマゼミ 平和島公園

4、自宅付近のセミ

 自宅付近のセミの初聞きは、ヒグラシが7月12日、ニイニイゼミが7月13日、アブラゼミが7月24日、ミンミンゼミは8月3日、人為的と思われるクマゼミは勤め先で8月8日に鳴き始め、8月27日まで確認できた。ツクツクボウシが8月9日とツクツクボウシをのぞき遅れる傾向があった。
 庭で見つかった脱皮殻はアブラゼミ16個(10オス6メス)、ミンミンゼミ4個(2オス2メス)、ツクツクボウシ5個(2オス3メス)だった。ミンミンゼミは見つかる脱皮殻は少ないが、8月中旬に5個体程度の声が聞こえた。8月下旬に妙な鳴き方をするミンミンゼミが2個体いるのに気づいた。1個体は声が変で不明瞭な鳴き方をし、もう1個体は 対馬のミンミンゼミのように跳ねるような感じで鳴き、初めの”ミンミン・・・”は1回で、”ミーンーミンミンミンミー”は最高4回と対馬のミンミンゼミと本土のミンミンゼミの中間のようなセミであった。 この2個体は断言できないが、対馬のミンミンゼミと本土のミンミンゼミの雑種の可能性があり、幼虫期間5年で羽化したことになる。

表1 アロエから羽化したセミ 2008年

 
セミの種類 羽化日 羽化数 幼虫期間備考
ニイニイゼミ 7月16日    1雌 4年 雑木より羽化
クロイワツクツク 8月16日
8月26日
1雄
1雄
2年
2年
奄美大島産
オオシマゼミ 8月12日
9月12日
1雄
1雄
3年
3年
奄美大島産

 飼育によって羽化したセミは、相変わらず、幼虫の飼育への妨害が続いているので、羽化数が少なかった。今年はマツムシまで持っていかれた。妨害者はますます調子に乗っているようで、来年は羽化数ゼロになってしまいそうである。


5、奄美大島

 飼育の妨害がなければ、オオシマゼミが多く羽化してくるはずだったのだが、それも叶わず、しかたなく、10月4日奄美大島へ向かった。天候は曇りで、初めは弱い霧雨のようなのが時折降ってくるだけだったが、採集地の近く、一屯まで来ると本格的に雨が降ってきてしまった。その後1時間ほど時々弱まったりしながら雨は続いた。この雨の中、オオシマゼミだけは同じ調子で鳴き続けており、電柱や林の縁など比較的見つけやすいところで鳴いていたが、雨が止み、クロイワツクツクが鳴き出すとオオシマゼミのオスは林の中から出てこなくなってしまった。クロイワツクツクは沖縄本島南部や中部ではかなり減っているようだが、(インターネットの情報によれば、クロイワニイニイも今年は少なかったらしい)奄美大島北部ではここ数年増加傾向で、赤尾木では以前、人家の近くでもオオシマゼミの声を聞いた記憶があるが、クロイワツクツクの増加で山の方へ追いやられてしまったようだ。


6、不愉快な話

  これからは余談である。2月の終わりに大阪自然史博物館の担当者より、夏までに鳴く虫関係の本を出すからセミの話を書いてくれと頼まれた。締め切りは1ヶ月だったので何とか書いて送った。原稿を受け取ったというメールはあったもののその後4ヶ月ほど音沙汰なしだった。何も言ってこないので問題ないものと思っていたが、7月になってほんの発行の遅れの通知と大幅に削除された原稿がメールに添付されて戻ってきた。それは受け入れられなかったので、拒否したらボツになってしまったのである。だいたい筆者が原稿を書けば、どのような内容になるかは想像できそうなものである。ボツにするくらいなら、最初から原稿など依頼するなと言いたい。時間と労力の無駄である。大阪自然史博物館の連中の対応の悪さには大いに失望した。
 なぜボツになったかは、筆者の推測するところ、夏に発行された吉村氏の「素数ゼミの秘密に迫る」にその理由がありそうだ。筆者の原稿には吉村氏への反論が書いてあり、その部分が削除されていたからだ。(「素数ゼミの秘密に迫る」の反論は4倍する幼虫期に書いてある。)吉村氏の本が出る前に反論みたいなのが出てはまづいということだったのかもしれない。筆者にとっては反論を活字にする機会を逃したことになり、残念である。もう一つの理由はクマゼミの幼虫期ではないかと思う。大阪自然史博物館のS氏の見解と異なるからで、クマゼミの幼虫期間に関する部分も削除されていた。ようするに彼らは真実の追究より体面を重んじたのである。
 不愉快といえば、毎年のように続いている幼虫の飼育の妨害も同じ。なんとなくどちらかが死ぬまで続きそうな感じではある。11月に終わりかけた。通勤の帰り道、近くの交差点でのことである。信号は青だった。取手方面から左折しようとしている車があったが、少なくとも、その時は筆者が渡りきるまで待っているように見えたので、渡って行くと、止まっているはずの車が進んでくるではないか、「マジかよ」と思った瞬間ぶつかり3メートルほど飛ばされた。一瞬「俺の人生も終わりか」と思った。気がつくと死にかけたセミのように仰向けに道路にひっくり返っていた。幸い、ぶつかった車の前の部分が高かく、ぶつかる直前に後ろ向きになったので、後ろに回っていた作業着などで膨らんだショルダーバックに当たったらしい、(よく覚えていない)着地のときも、ショルダーバックが腰の上のあたりに入り込んだので、左足をひねったのと、ひじをすりむいたのと、打撲少々ですんだのである。というわけで来年も飼育の妨害は続きそうである。


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