蝉雑記帳’95



1、沖縄のニイニイゼミ

 7月8〜9日沖縄県名護市を訪ねた。8日午後2時過ぎに名護に着き、ニイニイゼミの 採集しやすい場所を探しつつ名護岳を登って行く、クロイワニイニイは道沿いにカンヒザ クラなどに鳴いていたが、もう終わりのようで数は少ない。ニイニイゼミはリュウキュウ マツの大木の割合低いところで鳴いていたが、採りにくいのでさらに登っていくと、いつ のまにか南展望台に着いてしまった。南展望台の裏手の林はリュウキュウマツの比較的若 い木が多く、常緑樹の森へと続いている。ニイニイゼミもやや多く、道沿いの若いリュウ キュウマツで1雄を採集し、その木に簡易飼育装置をとりつけ、採集したセミを入れ、さら に1雄を追加したが、雌は今回も採れずじまい。
本土のニイニイゼミとの鳴き声の違いは、以前にも書いたが、チィーと高くなる部分が本 土のニイニイゼミの誘い鳴きに似たチューという音に聞こえる。”つなぎ鳴き”がチィチ ィチィの連続で本土のニイニイゼミのようにチッ・チッ・チッ・チッとはっきりと区切っ た音にはならない。時として長く出しているときがあり、妙な感じがする。誘い鳴きはチ チチ・・・とひと続きの音で始まり、やや詰まったように聞こえるほかは本鳴きとあまり 変わらない。それと鳴いている雄は、ほぼ正面にとまっている個体以外は発見しにくい傾 向があり、近くでもう1雄が鳴いているようなときはなおさらである。
 登ってくる途中から展望台の機械設備の騒音と思っていたものは、展望台の裏手の森に くるとセミの声とわかった。その声はタイワンヒグラシがクマゼミの真似をしているよう なギーシャアシャア・・・ギーと聞こえ、初めは本当にタイワンヒグラシの仲間でもいる のかと思ったくらいである。声の主はオキナワヒメハルゼミ、最盛期には木の低いところ でも鳴くようだが、すでに最盛期は過ぎ、数もあまり多くなく木の高いところや森の奥で 鳴いているだけだった。オキナワヒメハルゼミはヒメハルゼミの亜種ということになって いるが、それにしては鳴き声が違いすぎるように思う。
 クロイワニイニイはカンヒザクラ、モクマオウなどにとまり、ニイニイゼミはリュウキ ュウマツ、ガジュマルにとまる。街中でも大きなガジュマルがあるとニイニイゼミは鳴い ている。朝、6時前ヒンプンガジュマルのニイニイゼミが鳴きだし、つられてクマゼミが 鳴きだした。外へ出てみると小雨がぱらついていて、虹が出ていた。しだいに雨足が強く なてきたので、クマゼミは黙り、本格的に鳴きだしたのは雨の上がった7時頃だった。沖 縄のクマゼミは生態的には本土のクマゼミとなんら変わりがない。石垣島のクマゼミのよ うに鳴き移りの範囲が狭いということはなく、山の中でも点々と鳴いている。
 帰りは知花城址、浦添城址公園を回った。今回もクロイワニイニイが多かったのは知 花城址、名護、浦添城址の順で、とくに浦添ではかなり少なかった。リュウキュウアブラ ゼミは名護では少なく、知花や浦添では普通にみられたが羽の破損した個体が目立った。


2、本土と沖縄のニイニイゼミの飼育による反応

 採集してきた、クロイワニイニイと沖縄のニイニイゼミは庭のソメイヨシので飼育し た。クロイワニイニイと沖縄のニイニイゼミはいっしょに鳴く時もあるし、そうでない場 合もある。いっしょに鳴くときは大抵の場合クロイワニイニイの方が先に鳴き出し、やや 間をおいてニイニイゼミが鳴き出す。反応の仕方をみているとお互い勝手にやっているよ うな感じである。本土のニイニイゼミと沖縄のニイニイゼミとの関係も同じようである。 本土のニイニイゼミとあたかも同種のように振る舞うのはやはりクロイワニイニイの方で 沖縄のニイニイゼミではない。おそらく本土のニイニイゼミとクロイワニイニイの基本周 波数が重なっているのだろう。なお好樹性も日周性もクロイワニイニイと本土、沖縄のニ イニイゼミは同じで、沖縄において、クロイワニイニイ、ニイニイゼミのとまる木が異な るのは鳴き声による住み分けが完全に行なわれている証拠であろう。このような状況証拠 から判断すれば沖縄のニイニイゼミは、やはり、本土のニイニイゼミとは別の種類、奄美 大島のニイニイゼミ(たぶんツチダニイニイ?)とも異なるさしずめオキナワニイニイか?


3、アブラゼミ多発

 今年はアロエから羽化したクマゼミは雄だったので8月12日城ヶ島へ行った。途中 京浜急行の堀ノ内で電車の停車中、珍しくクマゼミの声を聞いた。鳴き声はほぼ同じよう な所から聞こえていたので、この付近で発生したのかもしれないと思った。城ヶ島のクマ ゼミの発生状況はほぼ平年並、ミンミンゼミは昨年よりやや多め。科学朝日1994年8 月号「ドライな街の覇者ミンミンゼミ」の中で藤本和典氏が日比谷公園を歩けばミンミン ゼミの抜け殻がどっさりと見つかると書いてあったので、帰りに日比谷公園によってみ た。公園に入るとすぐニイニイゼミの雌見つけた。東京でニイニイゼミの雌が採れるとは 思わなかったが、今年はあちこちでニイニイゼミが目に付いた自宅付近でも珍しく複数の 声を聞くことがあった。日比谷公園のミンミンゼミは話ほど多くない、20日にも調べて みたが、多くみてもアブラゼミの10分の1ぐらいで、雄5〜6個体の集団が点在してい る程度である。日比谷公園は比較的平坦だから妥当な個体数と思われる。このほかニイニ イゼミ、ツクツクボウシがわりと多めである。しかし、なんといってもアブラゼミがもっ とも多く、本年1995年はアブラゼミが多発傾向だからかもしれないが、ミンミンゼミ の脱皮殻というのはおそらくアブラゼミの誤りであろう。それと藤本氏はミンミンゼミは 乾燥に強く、木のまばらなところを好むと言っているが、幼虫が乾燥気味の環境を好むの であって成虫が乾燥した環境を好むかは疑問だし、ミンミンゼミは森林性のセミだから木 のまばらなところにはむしろ少ないはずである。さらに東京でアブラゼミ、ツクツクボウ シも減っているとも言っているが、少なくともアブラゼミは都心部では当てはまらないの ではないかと思われる。ツクツクボウシも最近は昔ほど多くはないが、これはニイニイゼ ミのようにアロエで生存率が低下しない、むしろかなり高いので、幼虫期間が短いため最 近の冷夏や猛暑と夏が安定しないせいではないかと思う。
 蝉雑記帳’94に1994年のセミが少ないのは異常高温でカビたのではないかと書 いたが、アブラゼミには当てはまらなかったようである。アブラゼミが昨年少なく、今年 多かったのは1993年の大冷夏のせいで、幼虫の発育が遅れ、1994年の夏羽化する 1991年孵化の3年型の幼虫が減り、替わりに1995年羽化する4年型が増えたのと 1994年の猛暑で幼虫の発育が順調で1995年夏羽化する1992年孵化の3年型の 幼虫が増え、この二つの相互作用でアブラゼミが多発したというところだろう。ニイニイ ゼミも多かった方である。昨年同様4年前の秋に雨が多かったためとアブラゼミ同様の理 由であろう。しかし、1995年の場合秋から冬にかけて雨が少なかったので4年後の1 999年はニイニイゼミは少なくなる可能性大。はたしてこの予想あたるか?1999年 のお楽しみ。ミンミンゼミは平年並と思われたが、ニイニイゼミが多かった裏返しか?  そのわりには自宅の庭で見つかったアブラゼミの脱皮殻は11個(6雄5雌)とさし て多くない。ミンミンゼミも10個(6雄4雌)とひところの勢いはない。自宅の庭のセ ミの低迷は日当たりが悪くなったのが原因らしい。日当たりというより雨当たりというべ きなのかもしれない。自宅の庭からはあまり羽化しないが、近所の手入れのゆきとどいい ている庭などからアブラゼミが多数羽化して自宅の庭のプラタナス等で大合唱していた。 固体数が多いと天敵にやられるものも多く、8月に入ると毎朝のように悲鳴を聞く日が続 いた。相手は猫だったり、クモだったり、カマキリだったり精神衛生上好ましくない日が 続いたのである。


表1アロエから羽化したセミ1995年

 
セミの種類 羽化日 羽化数 幼虫期間備考
ニイニイゼミ 7月9日
7月10日
1雄
1雄
4年
4年
ツヤスガタ混合
ツヤスガタ混合
ミンミンゼミ 7月20日
7月31日
1雄
1雄
4年
4年


クマゼミ 7月28日 1雄 4年
クロイワツクツク 8月8日
10月2日
10月15日
1雄
2雄
1雄
3年
3年
3年
屋久島産
沖縄産
沖縄産 強制的
ツクツクボウシ 8月8日
8月10日
8月26日
8月30日
9月3日
9月15日
9月15日
9月27日
10月4日
10月12日
10月14日
10月16日
10月17日
  1雌
1雄
1雄
  1雌
1雄
  1雄
1雄
1雄
  1雌
1雄
  1雌
  1雌
  1雌
2年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
 
 
 
 
 
屋久島雄×本土雌
屋久島雄×F1雌
屋久島雄×F1雌
屋久島雄×F1雌
屋久島雄×F1雌
屋久島雄×F1雌
屋久島雄×F1雌
屋久島雄×F1雌



4、F2羽化せず。

 ツクツクボウシの屋久島雄×本土雌のF2は羽化はまったくなかった。アロエは昨年の 猛暑でも腐ることなく健全だったのでアロエが原因ではない。なお、戻し交配の屋久島雄 ×F1雌は一ヶ月遅れながら羽化している。しかし、雌が羽化してきたのは10月だったの で、成虫の活動もままならず、しまいには食樹が合わなくなって死んでしまい産卵させる ことができなかった。雄の鳴き声は2固体のみ聞くことができた。1固体はF1で1〜2 回だった高潮音第2段階初めの不安定な”オースツク”というような声の回数が3〜5回 に増え、最後の1〜2回”ホイヨスー”と鳴いて終わる鳴き方で、もう1固体はF1とそ れほど変わらないが、しばしば高潮音第2段階のみ2回繰り返したり、終奏音で終わらず、 前奏音につながり、高潮音第1、第2と続いて終わるか、さらにもう1度繰り返したりし た。F1と比べて不安定さと固体間のばらつきが多くなった感じである。F1は多発し、 F2発生せず、戻し交配もまともではない。この傾向は近縁種どうしの交配の結果に似て いて、生殖隔離が存在している可能性がある。しかし、1度の実験で結果を出すのは早す ぎるのでさらに実験を繰り返した後結論を出したいと思う。なお屋久島×本土の再実験が 1雌だけなのはアロエが腐ってしまったためである。
 というわけで今年も9月15日屋久島へ出かけた。これに合わせるように台風が発生 し、超大型の台風となって本州をうかがい始めたのである。しかも鹿児島行きのJALの 自動改札システムがバックアップごと落ちるというハプニングに遭遇。1時間遅れて羽田 をたったため屋久島行きはすでに行ったあと。JALの手配で1便後ので屋久島へ、食事 券が出た。屋久島に着いたがツクツクボウシの声はちらほら静寂に包まれていた。またし てもツクツクボウシにしてやられたのである。今年の場合出現が早く、すでに終わりかけ の模様。空港から3キロほど歩いたところで、ツクツクボウシがある程度まとまって鳴い ているところがあったのでそこで珍しく1雌採集、簡易飼育装置に入れたのだが、飼育装 置のつけた場所がよくなかったらしく翌日には弱ってしまい、少しばかりの産卵痕を得た に過ぎない。途中、宮之浦の役場の観光課の人に拾ってもらって、ついでに台風の予想進 路図を見せてもらったりして宮之浦についた。4年前は宮之浦の役場の付近にもクロイワ ツクツクが鳴いていたのだが、桜の木が大きくなったせいか脱皮殻も見つからなかった。 海に近い益救(やく)神社でクロイワツクツクを採集雌も普通にみられたので最盛期と思 われた。翌日16日、ツクツクボウシもあまりいないし、台風のせいで帰れなくなりそう なので、2泊の予定を1泊で切り上げ帰ることにした。どうやら屋久島には長くいられな いらしい。ちなみに予定していた17日の鹿児島発羽田行きは欠航だった。


5、千葉県白浜町のクロイワツクツク

 日本セミの会会報および毎日新聞の夕刊に千葉県安房郡白浜町でクロイワツクツクが 発生しているという報告があったので、8月26日、9月10日出かけてみた。しかし、 詳しい地名は書かれていない。発生地を知られたくないからだと思い、自力で探すことに した。報告の中に住民に聞き取り調査をしたとあるので案外町の中心近くではないかと推 理した。また、サルスベリが多数植えられているというのも何かの公共施設かという気も した。とりあえす、野島崎燈台まで行ってみることにして出かけた。8月26日は連絡が 悪く、内房線は途中から単線、各駅停車で行ったので朝7時頃家を出て着いたのは午後1 時だった。南房総はやはり遠かった。野島崎公園の神社でアブラゼミ少々、ツクツクボウ シが合唱、海岸付近のトベラの茂みにニイニイゼミが複数鳴いていた。ニイニイゼミは当 然鱗毛のはげた老域に達したものだが、この時期複数いるのはこの地域にニイニイゼミが 多いことを示している。キリギリスの声しきり、クロイワツクツクの声はしていなかった ので、町の中心付近に向かい歩いて行き、ホテルが立ち並ぶところを徘徊し、バス路線を 戻りかけたところでクロイワツクツクの聞き覚えのある声に出くわし、思わずほくそ笑ん だのである。運よく発生場所が館山寄りだったから見つかったようなもので、これが千倉 寄りだったら見つからなかったろう。サルスベリの植え込みは平屋の集合住宅の周囲に植 えられたものであった。この時点で1〜2固体の鳴き声が点在している状態で、ツクツボ ウシの声もわずかにしていた。発生地から水田をはさんで北の方に昔からの集落がありそ の裏には高さ100mほどの山が連なっている。集落の周辺ではアブラゼミ、ツクツクボ ウシがミンミンゼミは裏山を少し登ったところから鳴いているがクロイワツクツクの声は ない。
 次に最盛期と思われる9月10日に訪れた。千葉から快速電車が出ていたので12時 過ぎに着いた。個体数が増えたが、集中が起こり、サルスベリの植え込みには少なく、お もにそれをはさんだ2ヵ所の人家の裏庭で合唱していた。小さな水田をはさんだ人家の裏 庭が採集しやすそうだったので、断わって採らせてもらった。1本の常緑樹を中心に集ま っており、雄の数で15個体ぐらい、とまっている高さは比較的低く、撮影後3雄2雌を 手で採集した。また、発生範囲はサルスベリの植え込みを中心に100mぐらいが多く、 もっとも離れた所でサルスベリの植え込みから300メートルほどはなれた海岸に近い道 路に面した人家の裏庭だった。発生地から南西約1キロ弱で、野島崎公園だが、その途中 はほとんど木が生えていない。また、海岸地帯は駐車場になっているし、東側は市街地、 西側は市街地から耕作地、北約600メートルで古くからの集落に行き当たるが、途中は 水田になっているため、ほぼクロイワツクツクの発生地は隔離されているようなものであ る。したがって今後ともクロイワツクツクの分布拡大はむずかしいだろうと思う。発生地 全体の雄の数は50〜60個体ぐらいで、屋久島宮之浦の益救神社のクロイワツクツクの 個体数と同じくらいである。

白浜のクロイワツクツク
白浜のクロイワツクツク


6、温帯型クロイワツクツク

 ところでなぜ千葉県白浜町でクロイワツクツクが発生できたのかと言えば、たまたま持 ち込まれたクロイワツクツクが、聞くところによれば喜界島産らしいが、それが温帯で発 生することができるタイプのクロイワツクツクだっただけである。けっして冬が温暖でク ロイワツクツクが発生したわけではない。
今まで本土でクロイワツクツクが発生したことは何度かある。ひとつは1975年10 月下旬熊本県阿蘇郡西原村で徳之島から持ち込まれたもの。次は1984年9月11日に 愛知県西尾市高落町で採集されたもので鳴き声は8月下旬からしていたとのことで、奄美 大島からのものらしい。そして、1991年8月中旬自宅の庭、奄美大島産である。アロ エから羽化したクロイワツクツク(表1参照)は屋久島産が8月8日、沖縄産が10月 3日で、15日のものは飼育装置を開けたことによる半ば強制的なものである。この時出 てきたのは肥大して目が黒くなって羽化できる状態になっていた2雄、2雌と目の白い翌 年羽化と思われる1雌だった。この内1雄が羽化、1雄は羽化途中で死亡、2雌は再び土 の中に戻ってしまい羽化できずに死亡した。過去に冬期保温することによって得られたク ロイワツクツクは奄美大島産で、多くは雄と雌の出現が逆になっているものの8月中旬か ら9月上旬にかけて羽化している。もっとも保温したのは10月から翌年の5月頃までだ から夏の間は自然状態と変わらない。屋久島産のクロイワツクツクは白浜、奄美大島産の とほぼ同じである。沖縄産の羽化は10月と2ヵ月近く遅くなっている。徳之島から持ち 込まれたクロイワツクツクも10月である。これはおそらく徳之島以南のクロイワツクツ クは夏が長くなければ羽化できない亜熱帯型ではないかと思う。1975年は異常に残暑 が続いた年だっため10月になって発生することができたが、翌年からはできなかったと いうところだろう。これに対して、奄美大島以北のものは夏が短くても羽化できる温帯対 応型と呼べそうである。もし、これが沖永良島から南が亜熱帯型なら形態的特徴と一致す るのだがそうなっていない。なお、このような傾向は小型のコオロギ、マダラスズにも見 られるようで、徳之島以南が亜熱帯の系統、奄美大島以北本州中部にかけてが年2化の系 統、東北地方以北が年1化の系統だそうである。
 幼虫の耐寒性は温帯型も亜熱帯型も同じレベルで、幼虫の成長過程は7月下旬から8月 にかけて孵化し、最初の冬は1〜2齢、翌年の夏に3齢、秋には4齢、翌年の秋に終齢、 そしてさらに翌年羽化。温帯における幼虫期間3年、遅いものは4年と考えられる。 ま た、沖縄のものは羽化着色当時は褐色で成熟と共に緑色に変わるが、徳之島以北のものは 雌にその傾向がある程度で、雄は羽化着色当時から緑色である。
 クロイワツクツク以外に保温せずに飼育したセミはリュウキュウアブラゼミ沖縄産 (1993年孵化)および奄美大島産の7月のもの(1994年孵化)は産卵の翌年の6月 下旬、アブラゼミと同じ時期に孵化したが、1995年の秋に中をしらべてみたところ、 1個体も残っていなかった。幼虫の耐寒性はないらしいが、奄美大島産の9月のものにつ いては飼育してみる価値があると思う。
 オオシマゼミはI氏からもらい受け1992年8月に孵化した沖縄産はクロイワツクツ クと同じように成長したが、1995年秋に中を調べてみたらやはり1個体も残っていな かった。1993年に孵化し普通のアブラゼミといっしょに飼育した奄美大島産オオシマ ゼミは1994年10月アロエが弱ってきたので中を開けてみたところ、かなりしっかり としたオオシマゼミの終齢幼虫1雄、アブラゼミの脱皮直後の終齢幼虫2雄、オオシマゼ ミ、アブラゼミのものと思われる4齢幼虫が複数でてきた。そのまま別の飼育装置へ移し、 1995年秋に調べたところ、アブラゼミもオオシマゼミも1個体も残っていなかった。 さらに再びI氏よりもらい受け1994年に孵化した沖縄産オオシマゼミは1995年秋 に調べたところ終齢幼虫1雄しかでてこなかった。沖縄産オオシマゼミにおいては本土で 常温飼育をした場合、幼虫に耐寒性があっても夏が短いため羽化させることはできないで あろう。なお温帯の傾向が強くでる奄美大島のオオシマゼミにおいては再飼育する必要が あると思う。
 さらに気がついた点はオオシマゼミの終齢幼虫が沖縄産と奄美大島産とでは異なった 印象を受けることで、沖縄産のものはクロイワツクツクの終齢幼虫をやや大きくし色を濃 くしたような感じであるが、奄美大島のものは皮が厚くずっとしっかりとした感じである。
 なお、これらの飼育実験に協力していただいたI氏にあらためて感謝するしだいである。




  引用文献

大塚勲 1977
熊本県のセミ
昆虫と自然 12(8):23ー24
ニューサイエンス社

大平仁夫 1984
クロイワツクツクを愛知県西尾市で採集
月刊むし 166:7
(有)むし社

藤本和典 1994
東京地上げランドの生きもたち2
ドライな街の覇者 ミンミンゼミ
科学朝日 54(8) 644:132ー133
朝日新聞社

直海俊一郎、佐野かおる 1995
クロイワツクツク千葉県房総半島南部に土着か?
CICADA 12:43ー44
日本セミの会

新井哲夫 1995
鳴く虫(キリギリスとコオロギ)の光周性
昆虫と自然 30(11):34ー42
ニューサイエンス社



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