蝉雑記帳2006




1、真鶴岬のハルゼミ

 5月20日、真鶴岬の真鶴サボテンランド付近にハルゼミがいるという話があったので、行ってみることにした。 真鶴半島は御林(おはやし)と呼ばれる大木が茂った森があり、その近くのハルゼミが鳴くクロマツも大木であった。 サボテンランドはおはやし展望台公園に変わっていて、その駐車場付近の松林を中心に10〜20程度の 鳴き声がしていた。公園の中にも海に面した急斜面にクロマツがあるが、ハルゼミの声はしていない。 この後、三ツ石まで足を延ばしたが、ハルゼミの声はケープ真鶴近くのクロマツで1個体鳴いていただけ。 御林付近は松枯れ防止の薬剤散布地域になっている(ハルゼミの声が聞こえるところは薬剤散布地域から外れている)。そのせいでハルゼミがいないのか、もともといないのかは定かではない。

おはやし展望台公園の駐車場
おはやし展望台公園の駐車場


2、多野岳にて

多野岳からの展望
多野岳からの展望

 6月24日、25日、気まぐれで沖縄に行くことにした。ネットで宿泊先を探していると、名護市多野岳にある「旧いこいの村おきなわ」が目に止まった。山の上のほうにあるホテルなので、オキナワヒメハルゼミがいれば、あまり歩くことなく、オキナワヒメハルゼミのいるところまでいけるのではないかと思い、泊まることにした。空港から名護までは高速バスで向かった。沖縄自動車道に入るとまもなくクロイワニイニイの声が聞こえてきた。高速バスは料金所を出たり入ったりしながら(バス停が料金所の外にあるため)名護へ。
 予想通り、オキナワヒメハルゼミはホテルのすぐ下の駐車場付近から少しいて、さらに下っていくと谷のようになっているようなところを中心に常緑樹が残っていて、合唱が聞こえる。多くは林の中で鳴き、あまり道の近くまでは出てこない。たまに見つけやすいところに出てくるときもあるが、すぐにいなくなる。夕方には大合唱となったが、状況は変わらなかった。

オキナワヒメハルゼミ
オキナワヒメハルゼミ これ以上近づけなかった(ビデオ映像より)

 クロイワニイニイはホテルのすぐ下の駐車場付近で普通に見られるが、それ以外は意外と少ない。ニイニイゼミは夕方まだ明るいうちに散発的に鳴いていただけで、日没前後や早朝は聞かなかった。名護のバスターミナル付近ではクロイワニイニイ、クマゼミが鳴いていた。クマゼミはまだ出現初期らしく少ない。
 帰りは浦添の城址公園によった。リュウキュウアブラゼミはすでに最盛期のように多く、合唱が聞かれたが、クロイワニイニイは意外と少なく、1本に木に1個体ぐらいしか鳴いていない。


3、奄美大島のクマゼミ

 7月15〜17日、いつの間にか奄美市になっていた名瀬朝仁町に泊まっていた。ニイニイゼミは第一のニイニイゼミが主流で、第二、第三のニイニイゼミはそろそろ終盤。ヒメハルゼミ、クロイワニイニイも終盤で少ない。リュウキュウアブラゼミは低密度で、広範囲に散らばっている。ほかは龍郷の林業試験場にいるとき、遠くでオオシマゼミが鳴くのを聞き、名瀬長浜町の海に面した丘の斜面で、クロイワツクツクが鳴いていた。16日の朝、その長浜町の丘の斜面で今まで奄美大島で聞いたことがないクマゼミの声を聞いた。近くの丘でも2個体、朝仁町の丘でも1個体鳴いていた。タクシーで本茶峠に向かう途中、山羊島トンネルを抜けた名瀬鳩浜町から浦上町にかけて、時々クマゼミの声を聞くようになり、本茶峠の登り口付近で複数の鳴き声を聞いた。奄美大島もクマゼミの喧騒に包まれつつあるのかもしれない。


4、生枝産卵の確認

 8月26日、飛行機で日帰りの金沢。これで金沢への交通手段、電車、夜行バス、飛行機とすべて利用したことになる。小松空港付近はクロマツの林が続き、松枯れが目立つが、ハルゼミでもいそうな環境である。午前11時頃にはスジアカクマゼミの発生地に着いていた。発生が遅れているらしく、アブラゼミと共にまだ個体数が多く合唱が聞けた。スジアカクマゼミは昨年よりも多いくらいで、生枝に産卵中の雌にも出くわした。

生枝に産卵するスジアカクマゼミの雌
生枝に産卵するスジアカクマゼミの雌

 帰り道、昨年、少数のスジアカクマゼミの声を聞いたシダレ柳の多い、こなん水辺公園のわきを歩いて通ったところ、つつみ公園に匹敵する合唱が聞こえてきた。スジアカクマゼミの個体数増加の早さには驚かされる。水田地帯をしばらく行ったところにある湊運動公園のクロマツでもスジアカクマゼミ1個体が鳴いていた。
 雄、雌1個体づつ採集できたので、庭に放して雄がどれだけ移動すかを見てみた。9月10日の午前中まで確認でき、その間、隣の家の桃の木で鳴いていたのが一日あっただけで、それ以外は自宅の庭のケヤキ、アオギリ、プラタナスで鳴いており、雄には広範囲を移動する性質はないと思われる。しかし、雌は産卵場所を探しながら、広範囲を移動する可能性があり、発生地を離れた単独あるいは少数の鳴き声は雌の産卵によって生じたと考えられる。


5、自宅付近のセミ

 ヒグラシの声を聞いたという話があったのが7月13日、この日アブラゼミのひま鳴きも聞いている。翌14日にはミンミンゼミが鳴いたという話があり、15日の早朝ミンミンゼミの声を確認している。20日になってようやくニイニイゼミが鳴き出し、ひま鳴きの早かったアブラゼミも26日からと遅かった。31日、牛久の’くまぜみマニア’によるもと思われるクマゼミの合唱が勤め先から北へ200メートルほど離れた低い庭木しかないような人家の庭で始まり、8月17日まで確認。最高で20〜30個体はいたようだったが、今年はクマゼミ不作の影響か思うように個体数が集まらなかったらしく、周辺への拡がりが少なく、勤め先の敷地内も1個体しか鳴かなかったし、自宅の庭で鳴くようなこともなかった。
 クマゼミ不作と言えば、8月6日に行った城ヶ島も20年来の不作で、鳴き移りしていく個体を追えるくらい少なかった。その後個体数は増えたかもしれないが、場所によっては8月20日に行った平和島公園の方が多いくらいだった。
 ツクツクボウシの初聞きは8月6日。終聞きはニイニイゼミが8月26日、アブラゼミが9月24日、ミンミンゼミは8月30日で一時いなくなり、9月10日に鳴いたのが最後たった。ツクツクボウシはつくば市高崎で9月24日。
 庭で見つかった脱皮殻はニイニイゼミ1個、アブラゼミ8個(3雄、5雌)、ミンミンゼミ16個(7雄、9雌)、ツクツクボウシは見つからなかったが、多い時で3〜4個体の鳴き声は聞こえていた。
 飼育によって羽化したセミは表1のとおり。ミンミンゼミの対馬の雄と本土の雌の掛け合わせによって羽化したミンミンゼミは成熟と同時に死んでしまったので、どんな鳴き方をするのかはわからなかったが、形態的には対馬のミンミンゼミに近いものだった。

ミンミンゼミ 対馬×本土 ミンミンゼミ 対馬×本土
ミンミンゼミ対馬×本土



表1 アロエから羽化したセミ 2006年

 
セミの種類 羽化日 羽化数 幼虫期間備考
ニイニイゼミ 7月8日
7月12日
7月14日
7月16日
7月17日
1雄
1雄 1雌
1雄
1雄
   1雌
4年
4年
4年
4年
4年
ユッカより羽化
ユッカより羽化
ユッカより羽化
ユッカより羽化
ユッカより羽化
アブラゼミ 8月3日    1雌 2年  
ミンミンゼミ 8月24日 1雄 3年 対馬(雄)×本土(雌)
クロイワツクツク 9月6日
9月8日
9月27日
1雄
   1雌
   1雌
2年
2年
2年
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産


6、不調の理由

 ここ数年アロエから羽化してくるセミが急に減ってきた。ツクツクボウシやクロイワツクツクといったセミは羽化率が高いのだがそれがほとんど羽化してこない。いったいどうしたことだろうと思っていたところ、8月の終わりのある日いつもどおり帰宅すると、殺虫剤のにおいが充満していた。最初は近所で殺虫剤でもまいたのかと思ったが、アロエの飼育装置を置いてある温室の周りが特ににおう。昨年も同じ頃殺虫剤のにおいが充満していたことを思い出した。2004年にはユッカの飼育装置の側面に見えていたオオシマゼミの終齢になりたての幼虫が死んでいた。これらのことから考えて、ここ数年8月の終わりに誰かがやってきて、幼虫の飼育装置に殺虫剤を流し込んでゆくらしい。温室は自転車を置いてある小屋が邪魔をして、家の中から見ると後ろの方が死角になっている。庭は木が生い茂っていて、門があるわけではないので、犯人は容易に温室の背後に回り込むことができ、開いているサッシ窓から外側においてある飼育装置に殺虫剤を流し込んでいったと思われる。一般にアロエでセミの幼虫を飼育していることはほとんどの人は知らない。仮に知っていたとしても、外から見て、セミの幼虫がいるんだか、いないんだかわからないような容器に殺虫剤をまいたりしないだろう。嫌がらせならば、同じ温室内で飼育しているマツムシあたりを狙うと思う。推理が正しければ、犯人はセミに詳しい人で、おそらくセミの会の会員。アロエによる飼育が始まって20年以上も経ち、ユッカを含めた羽化数は600を超えているので、今さらつぶしてもしかたがないと思うが、犯人の狙いは、アロエから羽化してくるセミをゼロにしていまうことにあるのだろう、そして、そのことによって自分の立場が有利になる人物が犯人ということになるが、犯人が有能な人物ならば、アロエ飼育を超えることを目指すだろう。ヒグラシなど今だ飼育できていないセミがいるのだから、それを成功させるに違いない。自ら自分が無能な人間と証明しているようなものだ。いづずれにせよ原因がわかった以上犯人のためにも必ず元の状態へ戻す。


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