蝉雑記帳2004



名瀬市市街地を望む
名瀬市市街地を望む

1、5月初めの奄美大島

 奄美大島では3月頃からセミの声がするという話を聞いていたので、5月2日〜4日にかけて 奄美大島を訪ねた。2日と3日は名瀬市の付近をうろついてみたが、蝶類を比較的多く見かけた が、聞こえてくるのは風の音と鳥の声そして時々通る車の騒音ぐらいで、静寂そのものであった。 ただ、3日の昼過ぎ、名瀬市矢之脇町付近の丘の上のリュウキュウマツからニイニイゼミ(第一 のニイニイゼミ)の声が聞こえてきた。すぐに鳴き止んだので姿を確かめることはできなかった。 4日は空港付近をうろついたが、リュウキュウマツで、クロイワニイニイと思われる声を一度聞 いたのみ、ほかはサトウキビ畑でクロツヤコオロギが盛んに鳴いているだけで、静寂。
 この時期、奄美大島のセミは気の早いニイニイゼミ、クロイワニイニイがまれに鳴くだけのよ うである。


2、ハルゼミ

 5月1日と30日につくば市の高崎自然の森へ行ってみたが、松枯れと時期が悪かったこともあり、 ハルゼミの鳴き声は聞こえなかった。
 5月14日は、久しぶりに夜行の伊良湖ライナーで愛知県伊良湖岬へ。週末の夜行バスは満員。 もっともほとんどが、豊橋駅で降りてしまい終点まで乗っていたのは二人だけ。
 7時20分頃、休暇村付近に着いたときには、すでにハルゼミの合唱が始まっていた。個体数は伊 良湖岬にしては少なめ、未成熟でまだ鳴けない雄がいる一方で、寿命近いような雄も見られ、出現 が早いのか遅いのが判断がつかなかった。
 今から20年くらい前に千葉県京成さくら駅付近にあるゴルフ場周辺の松林で、ハルゼミが鳴いて いたのを思い出して、5月29日に行ってみた。20年もたつので、開発や松枯れで松林はもうない のではと思ったが、意外にも松林は健在だった。松枯れも少なく。牛久あたりから比べれば、はるか にましである。しかし、ハルゼミの声は聞こえなかった。 時期が遅かったのか、いなくなったのかは 不明である。



3、スジアカクマゼミの孵化

スジアカクマゼミの孵化

 6月26日に昨年採集したスジアカクマゼミの卵が孵化しているのを確認した。同じ日にミンミン ゼミの卵も孵化していたので、孵化時期はミンミンゼミと同じである。おそらく幼虫期間も同じで、 普通3〜4年と予想される。ちなみにクマゼミは茨城県牛久市では8月中旬過ぎでないと孵化しない。


4、奄美大島のクロイワニイニイの鳴き声

奄美大島のクロイワニイニイの波形
奄美大島のクロイワニイニイの波形

奄美大島のクロイワニイニイの鳴き声のスペクトラム
奄美大島のクロイワニイニイの鳴き声のスペクトラム

 7月3,4日奄美大島へ。空港付近ではあまりニイニイゼミ類の声が聞こえなかったので、少し不安だったが、 汗だくになって麓から本茶峠へ上ってゆくと、ニイニイゼミ類の声に満たされていた。クロイワニイニイは そろそろ終盤。リュウキュウアブラゼミは中腹でまとまって鳴いていたが、まだ、出現初期と思われた。 ヒメハルゼミもまだ少なめで、個体数増加中?。4日は曇りから雨になり、十分な観察ができないまま帰路に着いた。
 図はクロイワニイニイの鳴き声の波形だが、全体の長さが5分弱で、その内の1分数十秒だけ、”チィージー” の繰り返しがあり、残りは”ジー”の連続音である。これとは別に普通のニイニイゼミのようなパターンで鳴く クロイワニイニイもいて、奄美大島のクロイワニイニイは2タイプあるらしい。ニイニイゼミも第一のニイニイゼミは まだ出始めであまり鳴いていないようだ。第二のニイニイゼミは時々しか鳴かないらしく、リュウキュウマツの幹に静止してることが多い。 リュウキュウマツの枝や上の方で盛んに鳴いているのは、最初第一のニイニイゼミと思ったが違うようで、ビデオカメラで 録音した鳴き声をExcla社の DIGITAL Mephisto β版というソフトで”ジー”の部分をスペクトラム分析してみると、本土のニイ ニイゼミは8kHz前後にピークがあるのに対して、リュウキュウマツの上の方で鳴いていたのは7kHz前後にピーク があり、本土のものより低い。なお、第一のニイニイゼミは8kHz前後でクロイワニイニイは9kHz強にピークがある。


5、伊豆大島

伊豆大島のヒメハルゼミ
ヒメハルゼミ

 7月17日午後の高速船で伊豆大島へ渡った。この時期、伊豆大島は人気があるらしく、午後の便しか取れなかった。 浜松町から竹芝桟橋にかけては、ニイニイゼミ複数とミンミンゼミ1雄が鳴いていただけだったが、伊豆大島はアブラゼミ が最盛期に近く、ニイニイゼミはもう終わりの模様。ヒグラシは今が盛り。ツクツクボウシは個体数増加中、 ミンミンゼミは一度も声を聞かなかった。18日朝、クマゼミが鳴いていたが単独である。 この日は貸し自転車で元町から大島公園まで出かけた。クマゼミは泉津で複数鳴いていたほかは単独の声しか聞かなかった。 ヒメハルゼミは大島公園付近まで来てやっと鳴いていたが、もう終盤らしく、昨年鳴いてた椿見本園周辺はまったく 鳴いておらず、少し戻ったところにある低い椿の林で少しまとまって鳴いていたのでビデオ撮影をした。ヒメハルゼミ が鳴くのを待っていると奇声が聞こえ、赤茶色の生き物が近くを走り抜けていった。どうやらサルの縄張りに入って しまったらしい。やっと撮影したヒメハルゼミは羽が切れていた。
19日は遅い便が取れなかったので、10時の高速船で竹芝へ戻った。船が出るまで、元町港の周辺をうろついていると港 の近くのトベラの木周辺で、クマゼミが10雄程度鳴いるところがあった。また、昨年も感じたのだが伊豆大島はセミの出現 が茨城と比べて2週間程度早いように思う。


6、広がる?スジアカクマゼミ

 8月13日、スジアカクマゼミを見に行った。今回は森本駅から歩くことにした。途中線路をまたいで、1.5キロ ほど行ったところに橋があり、その近くの神社のケヤキから早くもスジアカクマゼミ1雄の声が聞こえてきた。さらに 600メートルほど行った北部公園のはずれに10数本植えてあるシダレヤナギからも2雄のスジアカクマゼミの声が聞こえてきた。 この公園から発生地まではさらに1.5キロほどある。神社のスジアカクマゼミはこの公園からの移動と思われるが、 公園のスジアカクマゼミは自力で飛んできたものかはわからない。発生地との間はイチョウの並木が続くだけでアブラゼミ も人家の庭で小数鳴くのみ。いずれにせよ、複数鳴いていたことから考えて、すでに2世代目になっていると思われるので、 近い将来この公園でもスジアカクマゼミの合唱が聞こえるようになるであろう。
 前回来たときは出現初期で、鳴き声も少なかったが、今回は最盛期ということもあり、かなり遠くから合唱が聞こえてきた。畑の中の 低木で鳴いているものもあった。前回は競馬場と運動公園で多く鳴き声を聞いたが、今回は、川沿いの公園でも多数鳴いている。 今年はマニアによる乱獲はないようだ。アブラゼミは木によって多かったり、少なかったりするが、スジアカクマゼミはシダレ ヤナギの分だけ均等に散らばっている。
 14日は昨日とうって変わっての雨模様。発生地に着くころには、雨が降ってきてしまい、やがて本降り。また、天気に阻まれてしまった。 小降りになった時、おもしろくないので小さめのシダレヤナギを蹴ってみた。雨の日でも木に上の方にスジアカクマゼミはとまっていて、さすが落ちては こなかったが逃げていった。木を蹴っていると咳払いをする人がいたので、採集者は白い目で見られているのかもしれない。この後、 運動公園のサクラで1雄採集。11時前に引き上げるころになって雨が上がり、ツクツクボウシとアブラゼミが鳴き出したが、 スジアカクマゼミの声は聞けなかった。
 雌も卵も採れなかったので、一月にうち二度も行くとは思わなかったが、8月27日の夜行バスで再び発生地を訪れた。 シダレヤナギが選定されて枝が少なくなっており、サクラの木はアメリカシロヒトリと毛の少ない毛虫が大発生して丸坊主になっていた。 曇り空から快晴へと変わり、7時半過ぎにスジアカクマゼミの声が聞こえてきた。思ったより残っていて合唱が聞けた。アブラゼミの落ち込みの方が激しく、 2週間前あれほどいたのに数えるほどしか鳴いていない。ツクツクボウシも少数。競馬場付近でニイニイゼミ1。運動公園の松の木で、木と一緒に運ばれてきたのか チッチゼミ1。スジアカクマゼミの産卵痕は最近枯れたばかりのような細い枝に見つかり、生枝にも見られた。また、枝が成長して古い産卵痕が 埋まってしまった枝もあった。 羽がぼろぼろになった1雌を採集。発生地から離れた公園と神社のスジアカクマゼミは消えていた。


7、自宅周辺のセミ

 セミの初聞きは、ニイニイゼミが7月8日、アブラゼミがつくば市高崎自然の森で7月10日、自宅付近は19日、ヒグラシ7月14日、クマゼミ7月20日、 ミンミンゼミ7月22日、ツクツクボウシ8月1日と夏が早かった割には初聞きが早くない。クマゼミはここ数年放されていた大きなケヤキの木が近くのケヤキと 共にに切られてしまった。この地区では最後まで残っていたケヤキの大木だったがついになくなった。牛久では人家付近の大木はことごとく消える運命にある。 このため、今までの国道6号と408号の交差点付近から国道6号を南に300メートルほど行った人家の中程度のケヤキを中心にクマゼミが放されるようになった。8月上旬2〜30の声がしていた。 また、勤め先の工場との距離も100メートル程度と近づき、工場の敷地内で3雄の声を確認した。
 今までクマゼミを放していたのは土浦の”くまぜみマニア”の仕業とずっと思っていたが、インターネットの掲示板にあった本人の告白によれば、 ここ2年ほど活動していないとのこと。意外にもクマゼミは電車で運ばれ、土浦でわずかばかり発生したらしい。牛久のクマゼミは別の人物の仕業ということになる。 おそらく、クマゼミが放されている場所付近に牛久の”くまぜみマニア”がいるのだろう。別の情報によれば三島−牛久ルートで運ばれているらしい。
 自宅の庭で見つかったセミの脱皮殻はニイニイゼミ1個、ミンミンゼミ、アブラゼミ共に4個(1雄、3雌)、ツクツクボウシ5個(1雄、4雌)ミンミンゼミは調査開始以来最も少ない。 庭で鳴いていたセミも少なめ。ミンミンゼミは8月中旬に3雄鳴いていたのが最高。つくば市高崎自然の森でもヒグラシ、アブラゼミが少なめだった。余談だが、自然の森にはスズムシ、クツワムシ の発生しているところがあったのだが、この夏、全面的草刈のため全滅したと思う(意外とまだ残っている)。最近これら秋の虫が激減しているが、原因は真夏の全面草刈である。
 終聞きはヒグラシが8月16日、クマゼミ8月18日、アブラゼミ9月6日、ツクツクボウシ9月23日 、東京都湯島聖堂付近で10月2日。全般的に9月にはいるとセミは急にいなくなった。 ミンミンゼミは8月中にいなくなったがニイニイゼミとミンミンゼミの終聞きは聞き損じてしまった。天敵の方は多く、8月下旬になるとオナガ,ヒヨドリ、カラスが交代でやってきていた。9月の初めにはモンスズメバチがツクツクボウシを狩っていた。 自宅(平屋)の屋根裏にキイロスズメバチが巣を作り、通風孔から出入りしていた。死骸や弱ったハチが家の中に入り込むくらいで特に問題がなかったのでそのまま放置。9月下旬になると、 そろそろ来るんではないかと思っていたオオスズメバチが庭を飛び回るようになった。 セミの飼育装置に止まっているときもあったが被害はなかった。 オオスズメバチはキイロスズメバチと小競り合いをしたあげく、10月2日に総攻撃が始まった。この日オオスズメバチは30近い犠牲を出し、大敗したが、その後もオオスズメバチの攻撃は続き、 10月中旬にはキイロスズメバチはついに陥落してしまったらしく、ハチの姿は見なくなった。

バケツに集められたスズメバチの死骸
バケツに集められたスズメバチの死骸

 アロエから羽化したセミは表のとおり。奄美大島産のクロイワツクツクはなぜか雄しか羽化してこなかった。今まで最長でも3年と思われていたクロイワツクツクだが、屋久島のものは4年まであるようだ。 9月23日にアロエの痛みがひどいので、オオシマゼミの飼育装置を開けてみたところ、目の白い終齢幼虫5〜6と羽化近い2雌が出てきた。この内1雌が夜羽化した。 クロイワツクツクとオオシマゼミの幼虫期間2年のものとツクツクボウシ本土×屋久島のF3は羽化しなかった。


表1 アロエから羽化したセミ 2004年

 
セミの種類 羽化日 羽化数 幼虫期間備考
ニイニイゼミ 6月21日
6月22日
6月23日
6月25日
6月26日
7月16日
1雄
2雄
1雄
   1雌
1雄
   1雌
4年
4年
4年
4年
4年
4年
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産
ユッカより羽化
ミンミンゼミ 7月24日
8月1日
   1雌
1雄
4年
3年
 
 
クロイワツクツク 8月8日
8月10日
8月16日
8月20日
8月22日
8月23日
8月26日
8月28日
9月2日
9月6日
1雄
1雄
1雄
1雄
   1雌
1雄
1雄
1雄
1雄
   1雌
4年
3年
4年
3年
4年
3年
3年
4年
3年
4年
屋久島産
奄美大島産
屋久島産
奄美大島産
屋久島産
奄美大島産
奄美大島産
屋久島産
奄美大島産
屋久島産
オオシマゼミ 8月19日
8月25日
9月1日
9月5日
9月9日
9月13日
9月23日
1雄
1雄
   1雌
1雄
1雄
1雄 2雌
   1雌
3年
3年
3年
3年
3年
3年
3年
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産
奄美大島産 掘り出しによる
ツクツクボウシ 9月6日
9月8日
1雄
   1雌
1年
1年
屋久島産 ユッカより羽化
屋久島産 ユッカより羽化


8、新北風(ミーニシ)

 最近、街中からクロイワツクツクが消えたという話があるので、10月9日久しぶり沖縄本島名護へ向かった。 途中、万座毛によってみた。バスを降りると近くの松林からクロイワツクツクに混じってオオシマゼミの声がしていた。 海岸近くにもいるのかと思った。万座毛付近はモクマオウの林で午後ということもあり、クロイワツクツクが少数鳴いているだけだった。 10日は名護城(なんぐすく)付近をうろついてすごした。名護城跡周辺は公園として整備されている。隣の丘陵と間に橋ができたり、 新しい道路も造られていた。ヤシを植えたところはセミが周辺へと追いやられているようだった。全体としては管理されすぎていて面白くない。 以前は名護城跡に通じる石段をある程度登らないとオオシマゼミは鳴いていなかったように思うが、今は石段の入り口の脇の木でも オオシマゼミの姿を複数見ることができる。オオシマゼミは午前10時頃までは数回鳴いて移動する個体が多く、やや敏感で、 とまる位置も木の上の方。久米島の個体ほどではないが、しばしばやや長めの前奏音を伴うことがある。 10時を過ぎる頃から次第に同じ木で長く鳴くようになり、とまる位置も低くなる。午後3時過ぎ頃からは再びとまる位置が高くなる傾向を示す。
 午前9時ごろ鳴き移りをするクマゼミの声を聞いた。10月のクマゼミは初めてのことである、午後にはリュウキュウアブラゼミの姿を見たが声は聞いていない。
 午後になると丘陵一帯はオオシマゼミの声に包まれる。奄美大島では道路などができ、開けるとクロイワツクツクが増えたりするが、 沖縄でそのような傾向はないようだ。以前は平地に近いところはクロイワツクツクが多かった。すでにシーズン後期で 数が減っているのかもしれないが、あまり鳴いていない。クロイワツクツクが良く見られたカンヒザクラも年数がたち、あまりセミが鳴いていない。 街中もクロイワツクツクが好む中程度の木が少なくなったせいか、まばらにしか鳴いていない。 夕方、オオシマゼミの合唱している場所から200メートル程はなれた街中でオオシマゼミの声を聞いた。 海岸近くに21世紀の森公園という木がまばらに植えてある公園があるが、クロイワツクツクもまばらにしか鳴いていない。 港の近くのこじんまりとした少しばかりの松林でまとまって鳴いていたぐらいである。
 帰る日の11日午前中、名護の市街地周辺では少ないクロイワツクツクも恩納海岸沿いではバスの中からも多数の声を聞くことができた。 特に名護寄りで多く、南下するにつれ、次第に少なくなり、琉球村近くまで確認できた。琉球村付近のオオシマゼミも以前よりも増えたような気がする。 都市化が進むとクロイワツクツクが減り、残った緑地でオオシマゼミが増える傾向があるように思う。 東京でミンミンゼミが増えるのと似たような現象なのかもしれない。

名護城跡に通じる石段
名護城跡に通じる石段
公園に植えられたヤシ
公園に植えられたヤシ
リュウキュウアブラゼミ
リュウキュウアブラゼミ
オオシマゼミ
オオシマゼミ
クロイワツクツク
クロイワツクツク

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