蝉雑記帳2003


大島公園
大島公園

1、伊豆大島

 7月19日朝、まだセミの声の聞こえない竹芝桟橋を後にした。高速船で2時間あまり、そこはニイニイゼミの声に満たされていた。 ちょうどニイニイゼミが最盛期で、アブラゼミが個体数増加中の模様。ツクツクボウシの声を一度聞いた。ヒメハルゼミが目的だったが、 元町から空港付近までうろついたにもかかわらず、一度も声を聞かなかったので、バスで大島公園へ行った。大島公園は大木が多い。 ヒメハルゼミはほとんどが単独で、多くても数個体が鳴く程度だった。3日通ったが、おおむね同じようだった。3日目は遠方のヒメハルゼミ の声がよく聞こえていたので、まだ出現初期だったのかもしれない。ちなみに一週間後に訪れた南伊豆石廊崎ではヒメハルゼミは大合唱していた。 結局、元町から大島公園の間で、ヒメハルゼミの声を聞いたのは大島公園付近だけだった。
 20日はバスで三原山頂口へ登ってみた。霧でほとんど何も見えない状態で、ヒグラシが時々合唱していた。ニイニイゼミはかなり少ない。 ヒグラシは海の近くでは少なく、ニイニイゼミとアブラゼミは山の上の方で少ない。
 これ以外のセミは元町から少し南へ行った野増付近で、ミンミンゼミの声を一度聞いたのみ。それと空港施設の周辺だけキリギリスが鳴いていた。


2、スジアカクマゼミ探し

 スジアカクマゼミがどのようなルートで日本に入ってきたのかをいろいろ考えてみた。スジアカクマゼミが産卵した枯れ枝一本ぐらいまぎれ込んだ のでは、とても高い密度にはならないだろう。ひょとしたら関釜航路のフェリーにでもまぎれて成虫が運ばれてきたのではないかと推理してみた。われながら 名推理と思って、8月2日〜3日下関へ行った。結果は迷推理にすぎなかった。
 山口宇部空港から急行バスで中国自動車道を通り、下関へ入った。中国自動車道の周辺はニイニイゼミが多いようだった。下関で見たセミは、 クマゼミ、アブラゼミ、ニイニイゼミ。クマゼミが多く、アブラゼミは普通、ニイニイゼミはそろそろ終盤。山口宇部空港付近も同じで、クマゼミが多い、 アブラゼミ、ニイニイゼミが少なめ、これにツクツクボウシが加わる。空港の施設周辺はまたしてもキリギリスが多かった。
 迷推理はだめだったので、インターネットに「百姓日誌」という福島県いわき市遠野町をあつかったページがあり、そのなかに”クマゼミ(シャー)”の 項目があったので、8月11日に行ってみた。今回は会社のドライブ好きの若いのにたのんで、常磐高速をいわき市まで行ってもらった。初めはニイニイゼミ の声がよく聞こえたいたが、いわき市に近づくにつれ少なくなった。とりあえず、遠野町のオートキャンプ場へ。杉の植林中心の環境で、ミンミンゼミ、 アブラゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシの声がしていたが、いずれも個体数は少ない。キリギリスが盛んに鳴いていた。次に常磐湯本町の21世紀の森公園、 ニイニイゼミとアブラゼミ少々。さらに、いわき公園、ニイニイゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、ヒグラシでヒグラシ以外はあまり多くな かった。全体を通して、ニイニイゼミなどはもう少しいてもよさそうなだが、冷夏のせいか森林が多い割にはセミが少ない。また、何を持ってクマゼミとした のか結局わからなかった。
 再び、インターネットを検索していると、とある掲示板に”小学生の頃埼玉県越谷の久*豆神社の森にエゾゼミがいた”という胡散臭い書き込みがあるのを発見。 久*豆神社は久伊豆神社(ひさいずじんじゃ)と思われるので、8月24日に出かけた。越谷は中心部を川が流れているためか、東京に近い割にはあちこちでニイニイ ゼミが鳴いている。ツクツクボウシも比較的多い。久伊豆神社で鳴いていたのはミンミンゼミ、アブラゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシで当然ながらガセネタ。 大きな木が多いので、昔いて今はいないということはないと思う。
 スジアカクマゼミは群馬から運ばれたケヤキが元ではないかという話もあったので、一応群馬にも行ってみた。見つかるわけがないが、8月13日に近いから館林。街の中心 近くはアブラゼミ、市役所付近からつつじヶ岡公園付近はニイニイゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシが加わる。ついでに足を伸ばして、東武伊勢崎線で伊勢崎まで、 館林を過ぎるとしだいにセミの声が減り、冷夏の影響か、伊勢崎ではアブラゼミとミンミンゼミが1〜2個体鳴いていただけ、実に静かであった。
 関東地方にはスジアカクマゼミはいないと思う。クロイワツクツクの例をもってすれば、持ち込まれてから20年もすれば、誰かが見つけて公にするだろう。発見され ないのが逆におかしいような気がする。見つからない可能性としてはエゾゼミの分布圏、長野のように集落の裏山のようなところでエゾゼミが鳴くような環境ならスジアカ クマゼミがいても分からないかもしれない。それとクマゼミの分布圏。誰もクマゼミが2種類いるとは思わないから、発見されない可能性がある。
 せめてスジアカクマゼミの卵だけでもと9月の下旬、台風が近づき、時々強い雨が降る中、会社の若いのに500キロばかり車で走ってもらって採りに行った。 着く頃には天気が回復していた。さすがにセミの声は無い。人が入りにくい場所に植えられたガマズミの仲間と思われる潅木の葉のないまっすぐ伸びた生枝に、 スジアカクマゼミのものと思われる産卵痕を見つけた。また、近くに植えてある若いサクラの半生のような枝にも産卵痕を見つけた。もちろんサクラの枯れ枝や 落ちていたシダレヤナギの枯れ枝にも産卵痕を見つけることができた。スジアカクマゼミは生枝から枯れ枝にかけて、広く産卵する習性があるように思う。

スジアカクマゼミの産卵痕
生枝にあった(撮影時点では枯れている)スジアカクマゼミのものと思われる産卵痕



3、軽井沢、望月、小諸

 8月10日に行った那須高原はエゾゼミ類がまばらにしかいなかったので、軽井沢か小諸に行けば、エゾゼミが見られるのではないかと思い、小諸へ行くことを会社の若いの に話したところ、車で行きましょうということになり、8月22日の夜10時半過ぎ、自宅を出発、この夏にしては珍しく、蒸し暑い夜で、あちこちでアブラゼミが鳴いていた。 未明、軽井沢へ到着、軽井沢は涼しく、コンビニの駐車場で仮眠。明るくなってから周辺をうろつくが、セミの声がしないので、佐久市を通りこして望月辺りへ、正確には今もって どこを走っていたのか分からないが、周辺の低い山にはミンミンゼミ、一度、”ミーンミンミンミンミー”と次の”ミーンミンミンミンミー”との間が妙に間を開ける(完全に音が途切れる) ものがいて、鳴き終わったと思うとまた、”ミーンミンミンミンミー”と鳴く変なミンミンゼミがいた。エゾゼミも鳴くが、あまり多くなく、木が高いので姿も見えない。場所によってはチッチゼミ が鳴く。アブラゼミは少なく、ニイニイゼミは一度だけ声を聞いた。キリギリスが多い、結局、都合のよい観察場所を見つけられなかったので、集落の中にある神社でミンミンゼミを観察した。ここ のミンミンゼミも少し変わっている。普通ミンミンゼミは飛んでくるとすぐに前奏を始め、続いて高潮音、鳴き終わるとずぐに飛び去るが、ここのは、少なくとも観察したセミはすべて、 前後に”つなぎ鳴き”にはさまれる。飛んでくるとまず、”つなぎ鳴き”を数回繰り返し、前奏、高潮音、鳴き終わっても、すぐには移動せず、”つなぎ鳴き”を数回繰り返してから 移動するかもう一度鳴いてから移動する。移動距離も短く、隣の木に移るか同じ木に止まりなおしたりする。いつまでも同じような場所で鳴き声が聞こえる。最後は小諸へ、小諸高原美術館 に隣接する公園。ミンミンゼミはかなり少なく敏感で近づけない。アブラゼミ、エゾゼミも少ない。チッチゼミは比較的多いが、赤松の木が高いのでどこにいるか分からなかった。ここでも キリギリスが多かった。


4、自宅周辺のセミ

 セミの初聞きは、5月5日につくば市高崎自然の森でハルゼミ、7月6日同じく高崎自然の森でニイニイゼミ、7月13日から17日にかけて、決まって、夕方7時ごろ、自宅の裏の方で、 ニイニイゼミが一度だけ鳴いていた。7月21日牛久駅付近でヒグラシ、7月27日高崎自然の森でアブラゼミ、7月29日自宅の庭でミンミンゼミ。7月中はクマゼミの声を聞かなかったので、 ついに”くまぜみマニア”はあきらめたかと思ったが、8月4日に鳴き声を聞いた。国道6号と408号が交差する付近で、最高で20〜30の雄はいたようだった。 そして、8月30日自宅の庭でツクツクボウシ。
 終聞きは、ニイニイゼミが9月15日高崎自然の森、ヒグラシ9月4日自宅の庭、アブラゼミ10月23日勤め先の会社構内。ミンミンゼミは自宅では8月中旬低温とヒヨドリが頻繁にやって きたおかげで、一時いなくなり、下旬になって再び雄が1〜2鳴く状態になって、終聞きは9月12日。勤め先の近くでは9月17日。クマゼミは自宅の庭で8月30日だった。
 自宅の庭で見つかった脱皮殻はミンミンゼミ7個(6雄、1雌)アブラゼミ3個(1雄、2雌)ツクツクボウシ1個(1雄)とかなり低調だが、アブラゼミの鳴き声は例年通りしていた。




表1 アロエから羽化したセミ 2003年

 
セミの種類 羽化日 羽化数 幼虫期間備考
クロイワニイニイ 7月24日    1雌 5年 ユッカより羽化 奄美大島産
ミンミンゼミ 7月29日
8月6日
8月9日
1雄
   1雌
1雄
3年
3年
3年

クマゼミ 8月13日
    1雌
5年
対馬産
リュウキュウアブラゼミ 8月20日 1雄 3年 奄美大島産
クロイワツクツク 8月24日
8月26日
8月27日
8月29日
8月30日
9月1日
9月3日
9月4日
9月7日
9月11日
9月12日
9月12日
9月13日
10月11日
2雄
1雄
2雄
    1雌
1雄 1雌
    1雌
    1雌
1雄
   1雌
    1雌
    1雌
1雄
    1雌
1雄
3年
3年
3年
3年
3年
3年
3年
2年
3年
2年
3年
2年
3年
2年
屋久島、奄美大島産
奄美大島産
屋久島、奄美大島産
奄美大島産
屋久島、奄美大島産
屋久島産
   屋久島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   屋久島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   奄美大島産
オオシマゼミ 9月6日
9月7日
9月12日
9月13日
9月15日
1雄
1雄
   1雌
   1雌
   1雌
2年
3年
3年
2年
2年
奄美大島産 口吻障害
  奄美大島産
  奄美大島産
  奄美大島産
  奄美大島産


5、色違いのクロイワニイニイ

 アロエから羽化したセミは表のとおりで、今まで羽化しなかったクロイワニイニイ、リュウキュウアブラゼミ、オオシマゼミが羽化してきた。クロイワニイニイは写真のように緑色ではなく、ニイニイゼミと同じような橙色をおびた褐色だった。 今まで羽化しなかったのはユッカとの相性が悪かったのが原因のようである。

クロイワニイニイ
ユッカから羽化したクロイワニイニイ

 リュウキュウアブラゼミもアロエとの相性があまり良くないようだ。8月26日に鳴き出し、10月30日まで生存して、過去最長飼育記録となった。 午前11時頃から鳴き始め、夕方まで時々鳴いていたが、アブラゼミほど遅くまでは鳴かない。今年はアブラゼミの発生が遅れたため、周辺でアブラゼミが多く鳴いていたが、お互いに反応はしなかった。唯一クロイワツクツクの鳴き声に”つなぎ鳴き”を始めたことがあっただけ。
 オオシマゼミは1雄は口吻障害のためすぐに死んでしまい鳴いたのは1雄だけ、午前10時以降、主にほかのセミが鳴いていないときに良く鳴く傾向があった。
 クロイワツクツクは、冷夏のためか10日以上遅れて羽化が始まったが、例年よりは比較的まとまって羽化した。成虫の飼育は同じアカメガシワで飼育したのにもかかわらず、飼育できたのは奄美大島産のものだけで、屋久島産と後で採集した千葉県白浜産のクロイワツクツクは飼育できなかった。
 奄美大島のセミは特に保温しなくても羽化させることができる。これはかつて、氷河期に奄美大島が温帯であった証拠と思われる。そして、この地方にクマゼミがいないのも同じ理由と思われる。


6、野島崎公園でクロイワツクツクの声

 9月13日、千葉県白浜町へクロイワツクツクを見にいった。意外にも出現が早かったらしく、雌が目立つ状態になっていた。帰りに野島崎公園を散策していると黒松の林からクロイワツクツク1雄の声が聞こえてきた。発生地からは直線で700メートルほど離れていて、 途中クロイワツクツクの声は聞かない。自力で飛んでいったものか誰かが放したのかはわからない。ほかのセミはアブラゼミとツクツクボウシがわずかに鳴いていた。


7、対馬

 一応目的はミンミンゼミの卵探しということで、11月1日〜3日対馬を訪ねた。それでも2日の日は内山へチョウセンケナガニイニイを見に行った。11月にしては気温の高い日だった。数年前来た時まとまって鳴いていた場所は木が茂って荒れ放題のようになっていて、2雄程度が鳴いているだけだった。 今回は別のある程度人の手が入っているような場所で。複数鳴いていた。比較的低いところに止まる雌を見つけたが、ビデオで録画中に飛んでいってしまった。
 チョウセンケナガニイニイは最近減少していると言われているが、原因はおそらく、雑木林の荒廃と思われる。雑木林に笹や低木の常緑樹が入り込んで密生してしまうと孵化した幼虫が地下にもぐりにくくなって減少するものと考えられる。


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