蝉雑記帳2002

1、最南端

日本最南端の碑
日本最南端の碑

 波照間島までは石垣島から高速船でおよそ一時間で着く、5月4日、港から最南端の碑まで歩いた。 島の中心部はサトウキビ畑、一部放牧場、なぜか大穴があいている所がある。セミはサトウキビ畑や 放牧場周辺の比較的低いギンネム中心の林にいる。しかし、イワサキクサゼミは散発的にしか鳴いて いない。もう一種、まだ出初めと思われるツマグロゼミの方はいくらかましで、多少まとまって鳴い ている所があった。周期的に鳴く傾向があるようで、いつも鳴き声が聞こえるわけではない。

イワサキクサゼミ
波照間島のイワサキクサゼミ
ツマグロゼミ
波照間島のツマグロゼミ

 今回からデジカメで撮影を始めたのだか、まだローンも終わっていないのに壊してしまい、以後の撮影ができなくなった。 波照間島へはデジカメを壊しに行ったようなものである。
 翌5日は、西表島大原へ行った。朝のうちは雨、次第に回復するが、日が差してこないとイワサキクサゼミは鳴きださない。 曇っていても鳴いているのはヤエヤマニイニイ、今年は出現早いのか、ヤエヤマニイニイがリュウキュウマツの大木で複数鳴 いていた。晴れ間が出てくるとイワサキクサゼミが鳴きだしたが、サトウキビ畑周辺のギンネム、テリハボクの低木やススキで 場所によって普通に見られる程度である。サトウキビ畑ではほとんど鳴き声を聞かない。ツマグロゼミの声が少ししていた。  昼過ぎに石垣島へ戻り、時間があったので、竹富島へ渡った。イワサキクサゼミは集落周辺でも散発的に鳴いている。 集落からコンドイ浜へ向かう途中で、低木のテリハボクやススキで、まとまって鳴いていただけ、コンドイ浜から港への海岸沿いの 道ではスジグロカバマダラやシロオビアゲハが目立ち、ササキリが鳴くだけで、イワサキクサゼミは一度しか 鳴き声を聞かなかった。  最終日の6日はバンナ岳へ、昆虫類が少ない。展望台周辺はイワサキクサゼミが散発的に鳴くだけ、それもハゼの木などの木の上 で鳴いている。イワサキクサゼミは個体数が減ると木の上で鳴くことが多くなるようだ。バンナスカイラインの北口の方へ歩いて行くと次第に イワサキクサゼミの声が増えてゆき、日当たりのよい斜面では普通に見ら れるところがあった。北口の公園付近でも普通に鳴いていた。山の上の方で、わずかにツマグロゼミが鳴く。
 余談だが帰りのJTAからJASへの乗り継ぎのとき、空港券はあっても座席がないという事態になり、8人が足止めになった。 空港会社ではあらかじめキャンセル分を見込んで、多めに発券してあるのだそうで、今回のような混雑時には座席が不足することも あるらしい。8人中2人はすでに座席の予約がしてあったのですくに乗れ、筆者は一人旅故、まもなく座席が確保され、搭乗す ることができたが、残りの5人家族は無事帰れたかはわからない。手続きはお早めに。


2、スジアカクマゼミ

 7月27日、金沢市郊外の発生地に着いたのは昼ごろだった。タクシーをおりるとその声はすぐにわかった。運動公園のグランド周辺の 木々から聞こえてきた。エゾゼミに似た「ジー」と「ギー」の中間の連続音で、20数秒続いて終わり、数分休んでまた鳴くとい う繰り返しである。エゾゼミのような短く区切った音は出さない。周辺のセミがいっせいに鳴き出し、いっせいに終わる。どこか ハルゼミの合唱を思わせる。とまる位置は枝のため、木の上の方である。運動公園や競馬場周辺は一部を除いて木が高いため、 観察には不向きである。しかたなく、運動公園の周りを歩いていると、川の対岸に植えられている比較的低い木にも少しは鳴い ているようなので、行ってみることにして、橋を渡ったところで、柳の木に登って何かしている人に会った。その人物はセミの会 会員のFさんだった。Fさんはしきりにスジアカクマゼミの写真を撮っていた。風がやや強く吹いていたためか、スジアカクマゼ ミは逃げる様子もなく、時間が来ると鳴いていた。筆者もついでに写真を撮り、それでも逃げないので、指を歩いているスジアカ クマゼミの前にだすと、登ってきた。じっくり観察して元に戻しても逃げなかった。まもなく案内役のTさんが来て、雑談中によ うやくスジアカクマゼミは飛んで、同じ木の上の方へ止まった。話によれは、まだ出現初期で雄ばかりだということだった。


スジアカクマゼミ

 午後3時ごろ食事から戻ると鳴いている数は減っていた。さらに時間がたつと合唱間隔が長くなり、午後6時頃には鳴かなくなった。 次の日は8時半頃、Fさんのレンタカーで着いたが、ニイニイゼミとアブラゼミ鳴いていただけで、スジアカクマゼミは沈黙。まもなく 鳴き出したが、合唱間隔が長い。日が昇るにしたがって合唱間隔が短くなる。スジアカクマゼミを採集している人がほかに二組おり、ス ジアカクマゼミはそれほど敏感ではないため、前日のそれはあまりにも鈍感だったが、長いつなぎ竿があれば比較的簡単に採集されてし まうようで、採集者の通った後にはスジアカクマゼミの声が消えていた。ちなみに筆者が持ち帰ったスジアカクマゼミは、Fさんよりい ただいた1雄だけ、Fさんにはいろいろ世話になってしまった。感謝するしだいである。
 飼育はヤマザクラの太い枝でニイニイゼミと同居、普通のクマゼミはやたら歩き回って足の爪をだめにして、木に止まれなくなって死 んでしまうが、スジアカクマゼミはカンレイシャ側には止まろうとせず、木の方に止まり、足をいためないため飼育しやすい。8月24 日まで生存。
 飼育では、一度だけ午前7時過ぎに鳴いたことがあったが、日当たりが悪いので、普通は午前9時半ごろ鳴き始め、夕方は日が当たらな くなると鳴きやむ。昼ごろがもっとも盛んであった。曇っていても薄日が差せば鳴くようである。なおスジアカクマゼミは、アブラゼミ、 ニイニイゼミ、ミンミンゼミには反応しない。スジアカクマゼミに反応したのはニイニイゼミだけだった。


3、 対馬8月

 8月11日昼過ぎ、雨上がりの対馬に着いた。13日の昼頃まで、対馬にいたのだが、この間天気が悪かった。11日は夕方から小雨、12日は11時過ぎまで雨、日中くもり、 夕方から再び小雨、13日は朝、青空が見えたが、8時頃から強いにわか雨。午前中は1時間程度しかやんでいなかった。というありさまで、思うように活動できなかった。セミ を観察したのは厳原の中心付近と空港の近くの樽ヶ浜付近に限られた。確認したセミは、アブラゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ。ニイニイゼミは シーズン末期でわずかに声を聞くのみ、アブラゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシは普通に鳴き声を聞くが、個体密度は思ったほど高くはない。人家の周辺の木や道端の木にはほとんど セミがいない。たまにクマゼミが鳴き移りで飛んでくるぐらい。もっぱら人家の裏山のようなところで鳴いている。山の上の方へ行くとツクツクボウシ主体になるようである。ミ ンミンゼミは厳原では一ヶ所に1〜2雄しか鳴いていなかったが、樽ヶ浜では一応普通に見られ、道端のサクラで鳴いていることもあった。2雄採集したが、見かけたミンミンゼ ミも含めて、新鮮な個体はおらず、採集したセミも一週間程度しか生存できなかったので、今年は出現が早く、すでに最盛期を過ぎていた可能性が高い。
 問題なのはミンミンゼミの鳴き方が普通のミンミンゼミと異なるという点である。鳴き始めはミンミンミンミンミンミンミーで、はねるような感じなのと ややテンポが速い点を除くと、普通のミンミンゼミの誘い鳴きや”つなぎ”鳴きに似た鳴き方で、状況によって回数は異なるが、3回が標準のようで、3回 目が伸ばし気味になり、強くミーンーまたはミンーそしてやや弱く、曖昧なミンミンミンミンミーと鳴き、これを1〜4回(普通1〜2回)繰り返して終わる。 ミーンーの後のミンミンミンミンミーの部分は割合はっきりしているものから曖昧な連続音で終わるものまでさまざまである。鳴き終わると別の木に移るか、 同じ木で、ミンミン・・・・ミーと鳴き始める。鳴いている時間の長さが、普通のミンミンゼミよりも短く、複数鳴いていてもどこか迫力に欠ける。また、 S氏のホームページにあった韓国のミンミンゼミの鳴き声に良く似ている。なお、飼育では普通のミンミンゼミとはお互いに反応しなかった。


対馬のミンミンゼミ
対馬のミンミンゼミ

対馬のミンミンゼミの鳴き声の波形
対馬のミンミンゼミの鳴き声の波形

普通のミンミンゼミの鳴き声の波形 鳴き始め
普通のミンミンゼミの鳴き声の波形 鳴き始め

普通のミンミンゼミの鳴き声の波形 鳴き終わり
普通のミンミンゼミの鳴き声の波形 鳴き終わり

対馬と普通のミンミンゼミの共演 aac


4、 自宅付近のセミ

 自宅付近のセミはヒグラシが7月13日、アブラゼミ7月17日、ニイニイゼミ7月18日、クマゼミは国道6号と408号との十字路付近で7月23日、 ミンミンゼミ7月31日、ツクツクボウシ8月14日に鳴き声を聞いている。ニイニイゼミは隣町の茎崎町(現つくば市)高崎高崎自然の森では7月14日に複数の声が聞 こえていた。クマゼミは”くまぜみマニア”による人為的な導入と思われ、8月3日には20〜30雄程度の声を確認している。インターネットの情報によ れば、”くまぜみマニア”氏はクマゼミ北上計画として、仲間を募って、まだ続けるようである。その一部と思われるクマゼミが、8月20日〜25日にか けて自宅の庭で1雄鳴いていた。
 自宅の庭で見つかった脱皮殻はアブラゼミが11個(5雄6雌)ミンミンゼミ10個(7雄3雌)ツクツクボウシ8個(1雄7雌)ツクツクボウシは雌 ばかりで、掛け合わせ実験の末裔のような気もしないでもない。見つかる脱皮殻が少ないわりにはアブラゼミ、ミンミンゼミの成虫は多く見られた(最高 でミンミンゼミ5雄程度)。近所にかろうじて残っていた松林がなくなって、オナガも住みづらくなったのか、オナガの数が減り、影響が少なくなったせ いかもしれない。終聞きはヒグラシが8月30日、ニイニイゼミが牛久市中央で9月1日、ミンミンゼミが9月16日、アブラゼミ9月23日、ツクツク ボウシ10月4日。10月14日には自宅の庭でクロイワツクツクが鳴いていたが、どこから羽化したのかは不明。ミンミンゼミ並みの鳴き移りをしていた。
 アロエから羽化したセミは表のとおりで、ミンミンゼミとクロイワツクツク白浜産で雄ばかり羽化する傾向があった。ツクツクボウシは本土雄×屋久島雌 のF2が半月遅れながら羽化している。以前の実験で、屋久島雄×本土雌のF2は羽化していない。



表1 アロエから羽化したセミ 2002年

 
セミの種類 羽化日 羽化数 幼虫期間備考
ニイニイゼミ 7月7日
7月8日
7月15日
7月18日
7月20日
1雄
1雄
  1雌
1雄
  1雌
5年
5年
5年
4年
4年
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化
ユッカより羽化
ミンミンゼミ 7月14日
7月20日
7月25日
2雄
2雄
1雄
3年
3年
3年
2雄ミカド型
1雄ミカド型

クマゼミ 8月3日
  1雌
4年
対馬産
ツクツクボウシ 9月6日
9月13日
9月16日
9月21日
9月24日
1雄
   1雌
1雄
1雄
   1雌
1年
1年
1年
1年
1年
(本土×屋久島)雄×(本土×屋久島)雌
(本土×屋久島)雄×(本土×屋久島)雌
(本土×屋久島)雄×(本土×屋久島)雌
(本土×屋久島)雄×(本土×屋久島)雌
(本土×屋久島)雄×(本土×屋久島)雌
クロイワツクツク 8月8日
8月15日
8月26日
9月1日
9月2日
9月9日
9月11日
9月12日
9月17日
9月23日
10月3日
10月7日
10月8日
10月19日
1雄
1雄
1雄
1雄
2雄
1雄
1雄
   1雌
1雄 1雌
   1雌
   2雌
   1雌
   1雌
   1雌
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
千葉県白浜産
千葉県白浜産
屋久島産
千葉県白浜産
千葉県白浜産、奄美大島産
屋久島産
屋久島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   奄美大島産
   奄美大島産


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