蝉雑記帳2001


1、冬の奄美大島

 2000年はオオシマゼミの卵が手に入らなかったので、卵探しに元旦早々奄美大島へ出かけた。 島に着くとそこは冬枯れしていない風景があった。暖かく、本土の10月下旬頃の陽気である。ススキ の穂がゆれる。リュウキュウオカメコオロギの声がしている。生き残りのマダラコオロギの声も、夜は 10度ぐらいになる日もあったが、16度ぐらいあるとタイワンクツワムシが鳴いていた。ホタルブク ロが咲き、菜の花も咲きモンシロチョウが飛ぶ。夏、秋、春が同居している。
 2日は喜瀬、3日は本茶峠へ行った。龍郷町芦徳から自転車で本茶峠まではさすがに遠かった。峠周 辺の森は落葉する木も多少あるためか少しは明るくなっていた。帰りに陽だまりでアサギマダラが舞っ ていたのが印象的だった。
 見つけた産卵痕のついた枯れ枝は、クロイワツクツクのものが意外と少なく気になったが、リュウキュ ウアブラゼミとオオシマゼミとおぼしき卵は7月中旬から下旬にかけて孵化した。


アサギマダラ
陽だまりに舞うアサギマダラ



2、5月の八重山

イワサキクサゼミ
セミノタカラダニのついたイワサキクサゼミ

 2001年5月3日〜6日にかけて、石垣島に泊まり、小浜島、西表島船浦付近、竹富島を回った。 結局、イワサキクサゼミしか見ることはできなかった。個体数が多かったのは西表の船浦付近、小浜島、 竹富島、石垣市の郊外の順で、以前のようにサトウキビ畑に群れることなく、周辺のススキや潅木など に見られる程度。石垣市の場合は産業道路から内側の中心部ではまったく声を聞くことはなかった。また、 空港付近でも鳴き声はしていない。
 竹富島はきれいな島で、島の中心から、コンドイビーチにいたる道はスジグロカバマダラやシロオビア ゲハなどの蝶がほかの島より多かった。


3、自宅付近のハルゼミ

 以前は牛久市の自宅付近の松林でもハルゼミの声を聞くことができたが、松枯れなどで、今ではまった く聞くことはできない。今でも松林は少しは残っているが、もともとほとんどハルゼミの鳴かない松林だ った。
 となりの茎崎町高崎、高崎自然の森には松林がある。5月13日に行ってみると予想通り、あまり多く ないがハルゼミの声を聞くことができた。どうゆうわけか健全な松林にはおらず、松枯れが進んでいる松 林で鳴いている。このハルゼミも松枯れと共にいなくなりそうである。


4、伊良湖岬のハルゼミ

伊良湖国民休暇村付近
伊良湖国民休暇村付近

 週末天気がよさそうだったので、5月19日、20日、愛知県伊良湖岬の国民休暇村に一泊した。国民休 暇村の周辺は松林に囲まれている。宿泊施設の周辺の松は高いが、海岸に近づくにつれ低くなる。海岸付近 の松は2〜3メートルの高さで、ごみが散乱しているが観察に都合がよい。19日の午後2時ごろ着くとまだ、 ハルゼミは合唱していた。特に西側を向いた松林で盛んに鳴いていた。夕方は5時近くまで声が聞けたが、 その後は前奏音のような音を出すだけになった。朝は7時過ぎに東側の松林から鳴きだした。朝、宿泊施設 の裏庭の芝生からハルゼミの雄が逃げていった。ハルゼミは孤立しているような松の木や剪定されている松林 にはほとんどいない。


5、霧の中のエゾハルゼミ

 6月10日、栃木、那須八幡は濃い霧におおわれていた。十数メートル先がよく見えない。それでもエゾハル ゼミは散発的に鳴いていて、悪天に強いエゾハルゼミに驚く。霧の状態によっては小合唱になることもあった。 路上に落下していた2雄を拾った。


6、上総亀山、久留里、大多喜、上総中野

 7月20日、ヒメハルゼミを探しに木更津から久留里線に乗って上総亀山まで行った。郊外に出れば、小湊鉄道沿線 と同じような田園風景が続く、馬来田(まくた)駅でようやくニイニイゼミの声を聞いた。亀山に着くと意外にもニ イニイゼミがさびしそうに鳴くだけで、じつに静かであった。しかたがないので久留里まで戻ることにした。帰り際 にアブラゼミの声がしていた。久留里駅周辺も亀山と同じようで、緑が多いにもかかわらず、ニイニイゼミの密度が 低い。
 7月21日は外房線大原からいずみ鉄道で上総中野まで行った。快速電車が上総一ノ宮までだったので特急が来るま で10分ほど待ったが、セミの声はまったくしていなかった。大原ではニイニイゼミの声がわずかにしていた。まずは 大多喜まで、大多喜駅周辺も渓谷があり、緑も深いのに亀山と同じようにニイニイゼミがさびしそうに鳴くだけ、大多 喜城の入り口付近の森で、わずかに1雄ヒメハルゼミが鳴くのを聞いた。その後、上総中野、ここまで来るとニイニイ ゼミの声が多少増えてくるようだ。人家の裏山のようなところと山の斜面の深い森で、少数ヒメハルゼミが鳴くのを聞 いた。はじめは小湊鉄道で五井まで行こう思ったのだが、連絡が悪かったので、大原まで戻った。いずみ鉄道はワンマ ンバスのようなレールバス。本数も旧態依然としている小湊鉄道よりは多いので、小湊鉄道も見習うべきだと思った。 帰りの外房線東浪見(とらみ)駅でニイニイゼミ、アブラゼミ(共に少数)に混じってツクツクボウシ1雄の声を聞い た。


7、城ヶ島20年

 8月4日、いつも通り、京浜急行三崎口駅からバスで神奈川県三浦市城ヶ島へ行った。8月上旬は普通、三崎口駅付 近ではクマゼミの声を聞かない。クマゼミの声が聞こえてくるのは三崎港付近からで、この日も同じだった。しかし、 8月中旬を過ぎると三崎駅周辺でも聞くようになる。このことは20年変わっていないと思う。変わったのは三崎側の 城ヶ島大橋の付け根周辺のクマゼミの密度が高くなったことだ。ちょうど城ヶ島から密度の高い部分がせり出してきた ような格好である。城ヶ島のセミの20年の変化はクマゼミ、アブラゼミ、ニイニイゼミはほとんど変化がないと思わ れるが、ミンミンゼミは畑周辺の雑木が大きくなった関係で増加した。唯一ツクツクボウシだけが減少した。それでも 最近まで、海に近いアカメガシワ主体の雑木林で多かった場所があった。そこは雑木林の一部が生ゴミのゴミ捨て場み たいになっていて、そこだけ笹が生えていなかった。その周辺でツクツクボウシが多発生していたのだが、昨年行って みたところ全面笹が茂ってしまい、ツクツクボウシはほとんど見られなかった。ツクツクボウシの減少理由は雑木林の 手入れが行き届かなくなり、笹が茂ってしまったためと思われる。城ヶ島側の城ヶ島大橋を渡りきった周辺のクマゼミ が妙に少ないのは”くまぜみマニア”による乱獲のせいか?



8、石垣島8月

 8月13日〜15日にかけて、昨年とほぼ同じ日程で石垣、西表島へ行った。西表が昨年の船浦から大原になったこと 以外は採れたセミも含め同じようであった。13日と14日の夕方は石垣島のバンナ岳で、タイワンヒグラシのビデオ撮 影を試みたが、都合のよい場所で鳴いてくれなかった。6時頃からは鳴き移りが盛んになり、2度ほど鳴くと飛んで行っ てしまうのでどうしょうもない。カラスとヒヨドリも活発に飛び回り、タイワンヒグラシを狙っているようで、けたたま しい悲鳴があがっていた。13日よりも14日の方がタイワンヒグラシの数が減っているような気がした。
 14日は昼過ぎまでクマゼミを見るために西表島の大原にいた。石垣島ではまったく聞かないクマゼミは大原の集落周 辺で普通に鳴いている。個体密度はそれほど高くない。城ヶ島の方が多いくらいだ。新鮮な個体ばかりで、雌らしいのも 見なかったので、まだ、最盛期ではないのかもしれない。集落はずれの墓地で1雄採集して逃がしたが、悲鳴は普通のク マゼミと同じだった。悲鳴が異なるのは個体差らしい。昼頃、クマゼミの合唱が終わるとヤエヤマクマゼミ1雄の声が聞 こえてきた。リュウキュウマツからはヤエヤマニイニイの声も細々と聞こえてきた。石垣島と西表島のクマゼミの出現の 差が一月以上あるのは平均気温の差が0.5度しかないので、西表島の個体の発生が遺伝的に遅いのだと思う。
 15日はバンナ岳で、ヤエヤマクマゼミをねらうが、ビデオ撮影しただけで終わる。昨年よりは個体数が多いように思 えたが、以前よりは神経質になったような気がした。このほかヤエヤマ二イニイとイワサキゼミが少々バンナ岳のふもと の方で鳴いていた。採集して持ち帰ったのはタイワンクツワムシだけである。



9、自宅周辺のセミ

 茨城県牛久市自宅付近のセミの初聞きは、ニイニイゼミが7月11日、アブラゼミとヒグラシが7月15日、ミンミンゼ ミが7月22日、クマゼミが勤め先付近で7月23日、ツクツクボウシが茎崎町高崎で7月29日。アブラゼミが早く、ヒ グラシが遅かった。クマゼミはもちろん”くまぜみマニア”が持ち込んだと思われる個体で、昨年と同じ場所、国道6号と 408号の交差する十字路付近で、最高10雄程度鳴いていた。終聞きは8月17日。セミの発生数はヒグラシを除いて低 調。ヒグラシはやや発生量が多かったらしく、いつもは鳴き声の聞けないようなところでも鳴いていた。9月4日には牛久 駅の近くの植え込みでも鳴いていた。終聞きは9月26日。
 自宅の庭で見つかった脱皮殻はミンミンゼミが28個(15雄、13雌)で最初に確認したのが7月17日。7月20日 には早くも雌が羽化してきて、早くから雌が羽化する傾向があった。オナガがしばしば出没したので、8月中旬頃までは1 雄が鳴く程度。8月23日に3〜4雄鳴いていたのが最高で、終聞きは9月16日と自宅にしては遅いほうである。アブラ ゼミの脱皮殻は17個(9雄、8雌)、ツクツクボウシ8個(5雄、3雌)だった。
 アロエから羽化したセミも表1のように低調だった。

表1 アロエから羽化したセミ 2001年

 
セミの種類 羽化日 羽化数 幼虫期間備考
ニイニイゼミ --月--日
6月27日
6月29日
7月2日
7月5日
7月6日
7月8日
7月9日
7月10日
7月12日
7月25日
7月−日
1雄
1雄
1雄
  3雌
2雄
1雄
2雄
  1雌
  1雌
  1雌
1雄
1雄
4年
5年
5年
4年
4年
4年
4年
5年
5年
4年
4年
4年
奄美大島産 死骸で発見
ユッカより羽化
ユッカより羽化
奄美大島産
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化

ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ユッカより羽化 本土雄×奄美大島雌
ツクツクボウシ 7月24日
8月21日
9月1日
9月−日
10月7日
1雄
  1雌
1雄
  1雌
  1雌
2年
2年
2年
2年
2年
本土雄×屋久島雌

本土雄×屋久島雌
本土雄×屋久島雌
本土雄×屋久島雌
クロイワツクツク 8月14日
9月12日
9月15日
9月19日
2雄
1雄
1雄
  1雌
3年
3年
2年
3年
千葉県白浜産 1雄ユッカから羽化
千葉県白浜産 ユッカから羽化
奄美大島産
千葉県白浜産



10、夏の終わり奄美大島

 9月29日昼頃、奄美大島空港は大雨、しかたなく早々龍郷町芦徳のホテルへ。それでも、2時過ぎになると雨がやんで きたので、ホテルの周辺を散策、クロイワツクツクばかりでたまにリュウキュウアブラゼミが混じる。あまり面白くないの で、赤尾木まで歩いて行った。赤尾木に着くころにはまた小雨が降り出してきた。赤尾木の街中では鳴いていないが、サト ウキビ畑の周辺の雑木林ではクロイワツクツク、オオシマゼミが鳴く。雨が強くなってくると、クロイワツクツクは鳴きや み、オオシマゼミだけが鳴き続ける。リュウキュウアブラゼミは雨の降り始めにいっせいに鳴きだす。
 夜、雨の止み間にホテルの外灯の近くのクロイワツクツクが鳴いていた。翌30日は、明け方薄暗いうちからホテルの裏 山でクロイワツクツクが鳴きだした。天気はやや回復し、晴れ間がのぞく。ホテルの自転車で午前中は喜瀬の集落の裏山で オオシマゼミの観察、採集、撮影をした。今年はわりと簡単に雌が見つかり、リュウキュウアブラゼミの雄も採集して、簡 易飼育装置の中に入れ、昼頃、戸口にある平行盛神社へむかった。喜瀬から赤尾木の町に入るまで所々道の近くでオオシマ ゼミの声を聞くが、赤尾木の街を過ぎると聞かなくなる。どうゆうわけか、ホテルの裏山につながる丘陵にはオオシマゼミ がいないようである。屋入(やにゅう)トンネルを抜けると再びオオシマゼミの声がしてくる。龍郷町役場を過ぎるころか ら雨が降り出す。雨の中オオシマゼミだけが鳴く。戸口に近づくとオオシマゼミがいなくなり、平行盛神社は雨上がりのこ ともあってか何も鳴いていなかった。期待はずれだったので戻り、大勝厳神社。ここはクロイワツクツクが普通、オオシマ ゼミがわずかに鳴く。近くの県林業試験場ではリュウキュウアブラゼミ、クロイワツクツクが普通に、やはりオオシマゼミ がわずかに鳴く。ここは公園のようになっていて、下草のないところもあり、あまり多くはないが、リュウキュウアブラゼ ミの観察には都合がよかった。
 今回は天気が悪く、ビデオカメラを落としたり(フードが傷つき、ガタガタになったぐらいですんだようだが)、三脚の ネジが締まらなくなったり、捕虫網の竿を折ってしまったりして災難続きだったが、セミには会えた。

リュウキュウアブラゼミ
リュウキュウアブラゼミ

オオシマゼミ
オオシマゼミ

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